1. いじめの認知件数は、この15年間で10倍に増加
2010年度の77,630件から、2024年度には769,022件となり、約10倍に増加しました。ただし、この増加を「いじめそのものが10倍になった」と捉えることには注意が必要です。学校がいじめを積極的に認知し、早期に発見・対応する取組が進んだことも、認知件数増加の大きな背景にあります。2020年度にはコロナ禍の影響などにより一時的に減少しましたが、その後再び増加し、2024年度は過去最多となっています。
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2. 校種別にみる、いじめ認知件数の増加
いじめの認知件数は、この15年間ですべての校種で増加しています。特に顕著なのが小学校です。
2010年度から2024年度までに、小学校では36,909件から610,612件へ約16.5倍、中学校では約4.1倍、高校では約2.7倍、特別支援学校では約9.6倍に増加しました。
大切なのは、子どもの小さなSOSを早期に発見し、深刻化する前に支援することです。
また、いじめが起きてから対応するだけでなく、日頃から子ども同士が支え合い、困ったときに「助けて」と言える関係づくりを進めることが重要です。
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| 年度 | 小学校 | 中学校 | 高校 | 特別支援学校 |
| 2010年 | 36,909人 | 33,323人 | 7,018人 | 380人 |
| 2024年 | 610,612人 | 135,865人 | 18,891人 | 3,654人 |
| 増加倍率 | 16.5倍 | 4.1倍 | 2.7倍 | 9.6倍 |
3. いじめの認知件数は増加し、低年齢化もみられます
いじめの認知件数は、この15年間で大きく増加しています。特に小学校では、2010年度の36,909件から2024年度には610,612件となり、約16.5倍に増加しています。
さらに注目したいのが、いじめが多く認知される学年の変化です。2011年度は、中学1年生が15,260件と最も多く、小学6年生の6,615件と比べて約2.3倍でした。小学校から中学校への進学時に認知件数が急増する、いわゆる「中1ギャップ」がはっきりとみられました。
ところが2024年度は状況が大きく変化しています。最も多いのは小学2年生の117,867件で、小学1年生も111,139件、小学3年生も116,012件となっています。現在では、小学校低学年で非常に多くのいじめが認知されています。
大切なのは、小学校低学年の段階から、子どもの小さなSOSを見逃さないことです。同時に、相手の気持ちを考える力、困ったときに助けを求める力、友だちと支え合う力を育てるなど、いじめが深刻化する前の予防的な取組がますます重要になっています。
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4 いじめの認知件数には大きな地域差があります
いじめの認知件数には、都道府県によって大きな差があります。
児童生徒1,000人当たりの認知件数は、2019年度の全国平均46.5件から、2024年度には61.3件へ増加しています。一方、2024年度をみると、都道府県によって約20件から100件を超える地域まで、大きな開きがあります。
ただし、認知件数が多い地域ほど、いじめそのものが多いとは限りません。 学校や教育委員会が、子どもの小さな変化や訴えを積極的に「いじめ」として認知していることも件数に影響します。
この地域差からも、「いじめをどれだけ発見できているか」という視点から考えることが重要です。
いじめではなく、子ども同士の些細なトラブルまでを報告している事例もあれば、いじめを見落とし自死まで追い詰められた事例もあります。いじめを的確に判断するアセスメントの力量が求められます。
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5. いじめ防止対策推進法のいじめの定義 「嫌な影響を受けた=いじめ」?
いじめの定義は、時代とともに大きく変化してきました。
以前は、「弱い者に対して一方的に」「継続的に」「深刻な苦痛を与える」ことなどが、いじめを判断する重要な条件とされていました。
その後、こうした条件はなくなり、現在では、一定の人間関係にある相手から心理的・物理的な影響を受け、本人が心身の苦痛を感じているものを「いじめ」と捉えます。つまり、いじめの判断は、行為の強さや回数ではなく、被害を受けた子どもの立場に立って考える方向へ変化したのです。
それはとても大切なことですが、「影響」の解釈が極めて難しい状況です。この定義の変化も、近年のいじめ認知件数が増加している背景の一つとして考える必要があります。
| 年度 | いじめの定義 | 定義のポイント |
| 平成17年度以前 (~2005年度) | 自分より弱い者に対して、一方的に身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているもの | 弱い者・一方的・継続的・ 深刻 |
| 平成18年度 (2006年度)~ | 一定の人間関係にある者から、心理的・物理的な攻撃を受け、精神的な苦痛を感じているもの | 「一方的」「継続的」「深刻」という条件を削除。被害を受けた子どもの立場を重視 |
| 平成25年 (2013年)~ | 一定の人的関係にある児童等が行う心理的・物理的な影響を与える行為(インターネットを含む)で、対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの | いじめ防止対策推進法で法的に定義。ネット上の行為も明記 |
6. 「影響」という言葉をどう考えるか
いじめ防止対策推進法では、いじめを「心理的又は物理的な影響を与える行為」で、相手が心身の苦痛を感じているものと定義しています。一方、人間関係では、互いにさまざまな「影響」を与え合います。意見の違いやけんか、行き違いによって、嫌な思いをすることもあります。そのため、「嫌な影響を受けた=いじめ」と形式的に捉えると、日常的な葛藤と深刻ないじめとの違いが見えにくくなる可能性があります。
しかし、子ども同士の生活では、けんかや意見の違い、行き違いなど、互いにさまざまな「影響」を与えながら人間関係を学んでいきます。こうした日常的なトラブルまで一律に「いじめ」として捉えることになれば、子ども自身が葛藤を乗り越え、問題を解決する力を育てる機会を失う可能性もあります。小学校1年、2年、3年のいじめ認知件数は、各学年との10万件を超えています。この数字の中には、「嫌な影響を受けた=いじめ」も多数含まれていると思われます。
7. これはいじめですか? 学級会でのいじめ?
担任は、学級会を開いて、掃除当番や給食当番の取り組みの反省会を開いた。学級委員のBは、Aに「掃除当番や、給食当番をサボるのをやめてほしい」と言った。後日、Aの親は担任に対して、「学級全体でAに対するいじめがあった」と、クレームを言いに来た。「特に、Bは、いじめの加害者である」「担任も、いじめの加害者だ」と言う。
「いじめ防止対策推進法の定義」を持ち出し「先生、うちの子(A)は、影響を受けたので、いじめです」と強く訴えた。
8. これはいじめですか? 部活動でのいじめ?
Cはバスケット部に所属していた。Cは練習をよくさぼったり、練習もダラダラとやっていた。
試合に負けて、部全体で反省のミーティングをしていた。ミーティングでは、Cの練習態度も話題となった。Cは親に、「部活動のミーティングでいじめにあった」と言った。親は、学校に「部活動全体で、うちの子がいじめにあった」と言う。
「いじめ防止対策推進法の定義」を持ち出し、「先生、うちの子(C)は、影響を受けたので、いじめです」と強く訴えた。
9. 2つの事例に対する、今までの対応
2006年の定義では、いじめは「心理的・物理的な攻撃」とされていました。2013年のいじめ防止対策推進法では、いじめを見逃さないため、「攻撃」より広い「心理的又は物理的な影響」へと変更されました。この変更によって、無視やからかいなども幅広く捉えられるようになりました。
「影響」とは、単なる因果関係ではありません。「影響」とは、「攻撃」と同じ「行為」です。
つまり、7の学級会の事例では、毎日毎日、繰り返し、「掃除当番や、給食当番をサボるのをやめてほしい」と言い続けられた「行為」は「影響」を受けたと言えます。同様に、8の部活動の事例では、毎日毎日繰り返し、「練習態度が悪い」と言い続けられた「行為」は「影響」を受けたと言えます。
「影響」は、「攻撃」に匹敵する程度の量・質を具備したものでなければなりません。そうでないと、少年冤罪を生むことにまります。「被害児童生徒」の立場を重視するあまり、「加害児童生徒」認定のカギともなる「影響」を安易に認定することは、少年冤罪の危険をはらむことを認識しなければなりません。7の学級会の事例では、学級委員のBはいじめの加害者に、そして、8の部活動の事例では、多くの部員が加害者になってしまいます。
以前は、このような理論で、対応できることはありましたが、現在はできません。
10. いじめ防止対策推進法では、いじめと認定
現行のいじめ防止対策推進法第2条に当てはめると、7の学級会の事例では、AがBの発言によって心身の苦痛を感じていた場合、Bの発言が「いじめ」と認知される可能性が高いです。Bは学級委員として、Aに「掃除当番や給食当番をサボるのをやめてほしい」と伝えています。この情報だけなら、Bの行為には、少なくとも学級活動を改善しようとする目的があった可能性があります。ところが、現行法の定義では、Bに「いじめる意図」があったかどうかは決定的な要件ではありません。同様に、8の部活動の事例でも同様となり、Cを注意した部員は加害者となります。
文部科学省は、個々の行為について、行為を受けた児童生徒の立場から判断するよう求めています。文科省の「いじめ防止対策協議会」でも、好意に基づく行為であっても相手が傷つけば、法第2条の定義上はいじめに含まれ得るという趣旨の意見が実際に出ています。この事例はまさに、「法的ないじめの認知」と「教育的な指導」のずれがあらわれているのです。
私は、現行のいじめ防止対策推進法、第2条(定義)は、問題がある考えています。この法的な対応を、教員に求めることに無理があります。
11. 「無自覚ないじめ」とは何か?
仙台市教育委員会の児童生徒が安心して学校生活を送るためのいじめ対策ハンドブックがあります。このハンドブックは、それ以前の「いじめ対策ハンドブック」を改訂したもので全教職員に配布されました。改訂版では特に「無自覚ないじめ」の記載や、スクールロイヤーからのアドバイスなどを盛り込み、いじめの未然防止・早期発見・具体的対応について教職員の共通理解を図ることが目的とされています。
「無自覚ないじめ」では、算数の授業で練習問題に取り組んでいる場面で、A子が「その答えは○○だよ」、B子は「自分で答えを出したかったのに何で答えを言うの?」との事例があります。

この事例は、法律上はいじめに該当し得ます。
現行のいじめ防止対策推進法第2条は、相手に心理的・物理的な影響を与え、その相手が「心身の苦痛」を感じていることを定義の中心にしており、悪意や「いじめてやろう」という意図を必須要件にしていません。 文科省も、「好意から行ったが意図せず相手を傷つけた場合」まで、定義を正確に適用すればいじめとして認知されると明示しています。
いじめは、加害者・被害者がいます。この事例では、問題を教えたA子が加害者で、B子は被害者となってしまします。私も中学校教員の経験があるますが、学校でこのような事例を、いじめとして対応するには、極めて無理があるます。このハンドブックでは、もっと相手のことを考えて行動しようという意図はよく理解できます。
12.これは、いじめ?




無自覚ないじめの指導後、
子どもたちは、
友達と関わることをやめたくなる可能性が高い
| 事例 | 内容 | 教育的にまず考えられること |
| ① 遊びの誘いを断る | 先約があったので断った。嫌っているわけではない | 通常の友人関係上の出来事 |
| ② あだ名 | 本人が「呼んで」と言ったので呼んだが、その後ふざける人が出て嫌になった | 途中から状況が変化している。からかい等への発展に注意 |
| ③ メダカの餌 | メダカを見たくて餌を与えた。係の子は勝手にやられて嫌だった | 役割・ルールをめぐる行き違い |
| ④ 掃除 | 掃除をさぼっていたので「ちゃんと掃除して」と注意した。言われた側は強い言い方が嫌だった | 注意の仕方をめぐる対人関係上の摩擦 |
これらの事例も、現法律ではいじめとなります。いじめ防止対策推進法第2条は、「一定の人的関係」にある児童から「心理的又は物理的な影響」を受け、対象となった児童が「心身の苦痛」を感じているものを「いじめ」と定義しています。攻撃する意図、反復性、力関係の優位性などは条文上の要件ではありません。
「無自覚ないじめ」の指導が、子ども同士の関わりを萎縮させると考えています。相手が嫌な気持ちになった行為を幅広く「いじめ」として指導することで、「余計なことをしない」「注意しない」「誘わない」「関わらない方が安全」と子どもが受け止める可能性についても検討する必要があります。学校教育では、「つながる力」の育成は極めて重要ですが、「無自覚ないじめ」の指導は、「人と関わらない」方向性になることを危惧しています。
13. 交際申込みで、ふられた子が強いショックを受けた。これは「影響」をうけたのでいじめ?
2024年8月23日の文科省「いじめ防止対策協議会(令和6年度・第2回)」
好意を持った子からの交際申込みを断った時に、断られた子が強いショックを受け欠席した。
これは、「影響」を受けたから、いじか? という議論がありました。(2024年8月23日、文科省「いじめ防止対策協議会(令和6年度・第2回)」 断り方が相手の人格を無視するようなものだった場合には、いじめに当たり得るとしています。また、失恋した子が欠席しているのであれば、「断られただけ」と片付けるのではなく、断り方に問題がなかったかを調べる必要がある、と述べられています。
学校では、このような事例に対して、対応できるまったく余力はありません。この法に振り回せているだけです。
14.法的ないじめ、社会通念上のいじめ

いじめ防止対策推進法では、いじめを幅広く捉えており、行為者に悪意や加害意図がなくても、相手が心身の苦痛を感じた場合には、法の定義上「いじめ」に該当します。そのため、「親切心から算数の答えを教える」「友達からの遊びの誘いを断る」といった、一般にはいじめとは考えにくい行為まで、法的ないじめとして検討される場合があります。
一方、社会通念上の「いじめ」は、からかい、仲間外れ、嫌がらせなど、相手を傷つける性質をもった行為として理解されることが一般的です。
この「法的ないじめ」と「社会通念上のいじめ」のズレによって、学校では「どこまでをいじめとして認知し、どのように子どもを指導するのか」という難しさが生じています。
では、このズレをどのように解消したらいいのでしょうか。現時の私の考えは、「いじめの定義」の改定です。
参考文献・引用文献
・文部科学省(2025)令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果
・文部科学省(2006)いじめの問題への取組の徹底について(通知)
・文部科学省(2013)いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)
・文部科学省(2024)いじめ防止対策協議会(令和6年度)(第2回)議事要旨
・仙台市教育委員会(2021)児童生徒が安心して学校生活を送るためのいじめ対策ハンドブック