虐待

児童虐待を考える
― 子どもの命と心を守るために、私たちにできること ―

「しつけのためだから、少しくらい叩いても仕方がない」

しかし、子どもへの暴力は、心身や発達、その後の人生にも影響を及ぼす可能性があります。

児童虐待は、一部の特殊な家庭だけの問題ではありません。子育ての悩みや孤立の中で起こり得る問題です。

だからこそ、子どもを守ると同時に、保護者を支え、家庭を孤立させない社会づくりが重要です。

一般社団法人ピアサポート研究会では、「人と人とのつながり」という視点から、児童虐待について考えてみたいと思います。

1. 児童虐待とは何でしょうか

児童虐待には、大きく4つの種類があります。

身体的虐待
殴る、蹴る、激しく揺さぶる、やけどを負わせるなど、子どもの身体に危害を加える行為です。

性的虐待
子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る・触らせるなどの行為です。

ネグレクト(養育放棄)
食事を与えない、放置する、必要な医療を受けさせないなど、必要な養育を行わないことです。

心理的虐待
脅し、無視、差別的な扱いなど、子どもの心を傷つける行為です。
子どもの目の前で家族に暴力を振るう「面前DV」も、心理的虐待に含まれます。

2. 児童虐待の相談件数は、この25年間で約19倍に

 全国の児童相談所における児童虐待相談対応件数は、1999年の11,631件から、2024年度には223,691件となり、約19倍に増加しています。ただし、これは「虐待そのものが19倍になった」ことを意味しません。社会的認識の高まり、面前DVの把握、警察等からの通告増加なども、相談件数の増加に影響しています。

3. 最も多いのは「心理的虐待」

 2024年度は、心理的虐待133,024件(59.5%)、身体的虐待52,535件(23.5%)、ネグレクト35,612件(15.9%)、性的虐待2,520件(1.1%)でした。
 2004年の児童虐待防止法改正により、子どもの目の前で家族に暴力を振るう「面前DV」も、心理的虐待に含まれることになりました。

4. 虐待による死亡児童は77人(2024年)

5. 遅すぎる!! 日本は「世界で59番目」の体罰全面禁止国

 子育てでは、子どもにルールを伝え、注意しなければならない場面があります。しかし、「しつけ」と、身体的な苦痛や恐怖によって子どもを従わせる「体罰」は同じではありません。日本では2019年に児童虐待防止法等が改正され、2020年4月から、親権者等による体罰が法律で禁止されました。

 日本が体罰全面禁止国となったのは、世界で59番目でした。世界で最初に家庭での体罰を禁止したスウェーデンが1979年ですから、日本は約40年遅れて法整備を行ったことになります。

 そして、この法改正に至る時期には、子どもが「しつけ」と称する暴力を受け、命を失う痛ましい事件が相次ぎ、児童虐待対策の強化が大きな社会問題となりました。

 しかし、子どもが命を失ってから、法律や制度が変わるのでは遅すぎます。

 重大な事件が起きてから対策を強化するのではなく、子どもが犠牲になる前に、社会が危険の兆候を見つけ、子どもと家庭を支える仕組みをつくることが必要です。

6. 国連「子どもの権利条約」と体罰

 子どもを暴力から守ることは、世界的な流れです。
 国連「子どもの権利条約」は、子どもを一人の人間として権利を持つ存在と捉えています。
 国連子どもの権利委員会は、どれほど軽くても、痛みや不快感を与えることを意図して身体的な力を使う罰を体罰としています。
 また、侮辱、脅し、恐怖を与えるなど、子どもの尊厳を傷つける罰も問題とされています。
 子どもにも、身体と尊厳を守られる権利があります。

7. 世界で最初に体罰を禁止したスウェーデン

 スウェーデンは1979年、世界で初めて家庭を含む子どもへの体罰を法律で禁止しました。
 特徴は、法改正だけでなく、「叩かない子育て」を社会に広げる啓発や保護者支援を進めたことです。その経験は、法律だけでなく、具体的な子育て支援と「助けを求められる環境」が重要であることを示しています。

8. なぜ、体罰はいけないのでしょうか WHO(世界保健機関)報告

 「自分も叩かれたけれど、ちゃんと育った」「一度くらいなら問題ない」という声もあります。しかし、体罰については多くの研究が蓄積されています。
 WHOは、体罰が身体・精神の健康、認知・社会情緒的発達、教育上の成果などの好ましくない結果と関連し、子どもに肯定的な効果を示す科学的根拠はないとしています。
 とくに、慢性的で強いストレスが続く場合の影響が注目されています。
 危険に反応するストレス反応は本来必要な仕組みですが、家庭で恐怖や不安が長く続くと、繰り返し作動することになります。

9. 虐待の連鎖はあるのか?

 「虐待を受けた子どもは、自分が親になったときにも虐待をする」という、いわゆる「虐待の連鎖」が指摘されてきました。しかし、虐待を受けたすべての子どもが、将来、虐待をする親になるわけではありません。つらい経験をしながらも、周囲の支えを得て、あたたかい家庭を築いている人もいます。
 では、過去につらい経験をしても、人は変わることができるのでしょうか。

10.虐待とエピジェネティクス(後成遺伝学)

 そのことを考える上で注目されている研究領域の一つが、エピジェネティクス(後成遺伝学)です。エピジェネティクスとは、DNAの配列そのものが変わらなくても、環境や経験との相互作用によって、遺伝子の働き方が調節される仕組みを研究する分野です。

 子ども時代の慢性的なストレスや逆境体験と、ストレス応答に関わる生物学的変化との関連についても研究が進められています。ただし、これは「虐待を受けると遺伝子が壊れる」「虐待を受けたら性格が一生変わらない」という意味ではありません。むしろ大切なのは、人の発達は、遺伝だけで決まるのではなく、環境や経験との相互作用の中で進んでいくということです。

 安心できる家庭、信頼できる先生、支えてくれる友達やパートナーなど、人との良い関係や安心できる環境は、その後の発達や回復を支える大切な要因になります。

 過去だけで、未来は決まらない。虐待を受けた経験があっても、将来必ず虐待する親になるわけではありません。いい人との出会いが、人生を支え、ときには人生を変えることもあります。

 私たち一般社団法人ピアサポート研究会も、子どもたちにとって、そんな「いい出会い」の一つになりたいと考えています。

11. 虐待をした保護者を責めるだけでは、虐待はなくなりません

 子どもへの暴力は容認できず、安全が最優先です。一方で、保護者を孤立させるだけでは虐待はなくなりません。育児疲れ、経済的問題、夫婦関係、孤立、仕事との両立、子どもの発達への戸惑いなど、家庭にはさまざまな困難があります。
 必要なのは、「子どもを守ること」と「保護者を支えること」を対立させないことです。
 保護者が「もう無理です」「助けて」と言える場所が必要です。助けを求めることが、子どもを守る第一歩になることもあります。

12. 一般社団法人ピアサポート研究会が大切にしたい「つながり」

 一般社団法人ピアサポート研究会は、子どもが人とつながり、安心して過ごせる場を大切にしています。子どもは、家庭だけでなく、学校、地域、友達、先生、大学生など、多くの人との関係の中で育ちます。保護者も、一人で子どもを育てる必要はありません。
 「助けて」「ちょっと聞いて」と言える人がいること、周囲が小さな変化に気づくこと。
 そうした「つながり」の積み重ねが、虐待の予防や子どもの命を守ることにつながります。
 虐待を予防するには、「加害者」「被害者」だけでなく、その手前にある孤立や困難にも目を向ける必要があります。虐待が起きてから助ける社会から、起きる前につながる社会へ。
 子どもと保護者の小さなSOSを見逃さず、困ったときに誰かがそばにいる。
 一般社団法人ピアサポート研究会は、人と人とのつながりを大切にし、子どもたちが安心して成長できる社会を目指して活動していきます。

主な参考資料

主な参考文献・引用文献

・こども家庭庁(2025)児童相談所における児童虐待相談対応件数(令和6年度)
・こども家庭庁(2026)こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第22次報告)
・厚生労働省(2020)体罰等によらない子育てのために~みんなで育児を支える社会に~
・国連子どもの権利委員会(2006)『一般的意見第8号―体罰その他の残虐な又は品位を傷つける形態の罰から保護される子どもの権利』
・World Health Organization(2026)Corporal punishment of children and health.
  Madigan, S., Cyr, C., Eirich, R., et al.(2019)“Testing the cycle of maltreatment
  hypothesis:Meta-analytic evidence of the intergenerational transmission of child
  maltreatment.”Development and Psychopathology, 31(1), 23–51.
・McGowan, P. O., Sasaki, A., D’Alessio, A. C., et al.(2009)“Epigenetic regulation of the glucocorticoid receptor in human brain associates   
  with childhood abuse.” Nature Neuroscience, 12, 342–348.